地盤環境工学

イノベーション制震技術を用いた安全・安心な建築物の実現に向けて

不確定な地震動に対して建物を安全に守るには、これまでの耐震技術を超えた革新的な技術を導入する必要があります。既存建物の動特性を必要最小限の情報から正確に把握し、それを耐震補強へと生かす努力が必要です。古い基準しか満たさないいわゆる既存不適格建物の耐震補強は、喫緊の社会的課題です。本研究室では、この課題に関する研究を行っています。その他のテーマとしては、構造物と地盤の相互作用を考慮した逆問題型設計法や極限地震動モデルによる設計法などがあります。

英語による研究発表を推奨しており、国際的に活躍できる人材を育成することを目標としています。具体的な研究テーマは、教員紹介を参照ください。

教員

藤田 皓平 ( Kohei FUJITA )

藤田 皓平准教授(工学研究科)

研究テーマ

  1. 多次元入力地震動に対する建築耐震構造設計法
  2. 制振建物に対する最適設計法
  3. 不確定性解析法を用いたロバスト設計
  4. 構造物のシステム同定および構造ヘルスモニタリング

連絡先

桂キャンパス C14ブロック 3381号室
TEL: 075-383-3295
FAX: 075-383-3297

E-mail: fm.fujita@archi.kyoto-u.ac.jp

研究テーマ・開発紹介

地盤との相互作用を考慮した建築構造物の逆問題型設計法の開発

現在、建築構造物の設計において、地盤特性を考慮することは重要な課題となっています。2000年に改訂された建築基準法でもそのことが要請されています。しかし、これまでは、「地盤特性の有する不確定性」や「地震動に関する情報の不足」等から、地盤の特性や地盤と構造物の相互作用効果を構造物の設計に直接反映させることが積極的におこなわれていません。

本研究室では、設計者の経験と勘に基づき実施されていたこれまでの構造設計過程の数理化・論理化を図るために、目標応答性能から構造物の部材サイズ等を合理的に決定する「逆問題型設計法」を提案しています。

図-1は、逆問題型設計法で用いるモデルの妥当性を検証するために、横浜に存在する12階鉄骨造ビルの杭基礎で観測された地震動による杭の曲げひずみと、提案手法により推定された杭の曲げひずみを表しています。クリティカルとなる杭頭付近では良好な精度を有していることが理解され、これに基づく逆問題型設計法の信頼性も保証されているといえます。

Fig.1
図-1 実地震観測による杭支持モデルの妥当性の検証

コンパクト型制震粘性ダンパーを用いた耐震補強

1995年の阪神淡路大震災では,古い法規の下で建設され,1981年に導入された新しい建築構造設計基規準を満たしていない「既存不適格建築物」に被害が多くみられました。現在既存不適格建築物の耐震補強は,費用の問題や,建物の使用性の大幅な変更という問題などから,遅々として進んでおらず,大きな社会問題となっています。

本研究室では,耐震補強の促進のために,広い間口を確保可能なコンパクト型制震粘性ダンパーを用いた新しいタイプの耐震補強方法を提案しています。水平振動を鉛直方向のストロークに変換し抵抗する革新的な技術です。

Fig.2-1  Fig.2-2  Fig.2-3
図-2 オイルダンパーを用いた制震装置の実験の様子と,実験で得られた力‐変形関係

アウトフレーム型連結制振技術を用いた耐震補強

本研究室では、アウトフレームと既存建物(学校、宿舎)を粘性ダンパーなどで連結し、既存建物の耐震安全性を格段に向上させる耐震補強構法について研究しています。

本構法の特徴は、(1)工事中の移転が不要,(2)外観デザインを重視, (3)安い改修費用, (4)信頼できる補強効果,にあります。また、逆問題型の方法を用いて、アウトフレームや連結ダンパーの剛性や減衰係数を合理的に見出す論理的設計法を開発しています。

Fig.3-1

Fig.3-2
図-3 既存建物の連結制振構法による耐震補強とその効果

スマート同定法の開発(剛性・減衰の高信頼度同時同定)

建築物は工場生産される工業製品とは異なり、規模やその他の要因により、完成後の性能を評価することが容易ではありません。これまでは、それを評価する方法が、簡単な実験・観測を除いてほとんど存在しませんでした。

本研究室で新たに開発した方法は、必要最小限の観測地震動情報から剛性と減衰を同時に特定するもので、この分野において大きなインパクトを与えました。特に減衰特性の同定はノイズに左右され、大きな困難を伴いますが、本手法はこれまでの常識を覆す精度での同定を実現しています。

Fig.4-2 Fig.4-2
図-4 京都大学ベンチャービジネスラボラトリー棟(国立大学第1号免震建物)

Fig.5-1 Fig.5-2
図-5 積層ゴムの変形(実験時)と多機能直列型粘性ダンパー

設計用地震動モデル・極限地震動モデル(最悪地震動モデル)の構築

地震予知が現時点では大変困難であるのと同時に、建物がその供用期間に遭遇する地震のタイプ、規模等を設計の段階で推定することは極めて困難な状況にあります。現時点では、過去の資料や簡単な理論に基づき決定しています。ところが、1995年の兵庫県南部地震やその他多くの内陸型の都市直下地震で明らかとなったように、その推定は到底満足のいくものではありません。

本研究室では、限られた既知情報から発生が予想される集合としての地震動群を考え、構造物にとって最も危険な地震動(最悪地震動)を特定する新しい方法を研究しています。

Fig.6
図-6 神戸大学で観測された地震動(1995年の兵庫県南部地震)と同じ規模の最悪地震動に対応する地震入力エネルギー

図-6は、1995年の兵庫県南部地震において神戸大学で観測された地震動に対して、それと同じ規模の地震動群から、最も危険な地震動を特定する様子を示しています。尺度としては、構造物に入力されるエネルギーを採用し、その地震入力エネルギーの上限値(最悪地震動に対応)を求めています。この最悪地震動に対して安全に設計すれば、その他のどのような地震に対しても安全であることが保証されます。このような設計を「ロバスト設計」と呼び、構造工学における最近の重要なトピックスの一つとなっています。

高硬度ゴム粘弾性ダンパーによる建築物の居住性能改善法の開発

本研究室では,高硬度ゴム粘弾性ダンパーによる建築物の居住性能の改善法の開発を行っています。

高硬度ゴムを用いたダンパーを高層建築物に組み込んだ場合の地震応答および風応答の低減効果を,高硬度ゴムに対する極微小変形動的載荷実験などの実験的研究,および,等価線形解析などの理論的研究を通じて検証し,常時作用するような微小な風外乱から極めて稀に発生する大地震までの広い範囲にわたって,居住性に関連する加速度応答と,構造安全性に関連する変位応答をバランスよく低減させることが可能なことを明らかにしています。

Fig.7
図-7 高硬度ゴム粘弾性ダンパーによる風応答低減効果の検証実験